Case Studies 02導入事例
■大阪国際がんセンター 様
スタッフの負担軽減と患者さんのメリットを両立させる独自の「RPA」を構築
1959年に大阪府立成人病センターとして設立後、2017年に大阪市中央区大手前の地に新築・移転し名称も新たにスタートした大阪国際がんセンター様。『患者の視点に立脚した高度ながん医療の提供と開発』を理念に、先進医療の開発と実践、患者満足度の徹底追求を行っている。
固形がん遺伝子パネル検査においては、大量のゲノム情報を正確かつ効率よく処理する必要がある。遺伝子診療部においては精度の高さとスピードを両立すべく、事務処理を自動化する「RPA(Robotic Process Automation*1)」の構築・導入を検討。2024年秋より、プロジェクトをSI&Cとともに推進した。
今回はご担当の遺伝子診療部がんゲノム診療科兼臨床研究管理センター データマネージャーの山口優子さんと、遺伝子診療部データマネージャーの饗庭哲也さんに、プロジェクトの背景やRPA導入による具体的な効果などについてお話を伺った。
*1 RPAとは
PCで人が行う定型業務を、ソフトウェア・ロボットによって自動で実行する技術。データ入力や集計・管理、社内外システムの連携など、PCを使った繰り返し作業を高速かつ正確に処理することで、ヒューマンエラーの削減や作業時間の短縮、人件費削減などに貢献。
目次
作業の効率化、そして患者さんのメリット最大化を考慮しRPAを検討
2019年6月。日本において「がん遺伝子パネル検査」が認可され、大阪国際がんセンター様は国内においてその特殊な検査を手がける有数の存在となった。またその際に専門部門として発足したのが、山口さんと饗庭さんが所属する遺伝子診療部だった。その業務内容について訊いた。
―遺伝子診療部について教えてください
■山口さん
2019年に始まった「がん遺伝子パネル検査」は、がんゲノム医療の基盤となる検査で、がんに関わる多数の遺伝子の変異を包括的に調べる検査です。検査によって遺伝子の変化を特定し、その変化に対応する薬剤や治療法、適切な臨床試験の情報を得ることを目的としています。
私どもの遺伝子診療部には医師・データマネージャー、遺伝カウンセラーなどが所属し、日本で始まったばかりのこの検査を正確にかつ迅速に実施・運用するため日々取り組んでいます。
―RPA導入の背景や課題について教えてください
■饗庭さん
私たちが手がける「固形がん遺伝子パネル検査 」は、患者さんに関する重要な情報を扱い、正確さとスピードの両方が常に求められています。その情報量は多量なだけでなく非常に細かなもので、従来はそれらのデータ入力や管理を人の手で行ってきました。あってはならない記載ミスなどを防ぐために、ダブルチェック、トリプルチェックと、何度も確認を繰り返すのも重要な作業の一つでした。しかしそういった作業の分だけ時間も手間もかかりますので、私たちだけでなく患者さんや医師にとっても、より精度を高めスピード化を図ることが求められていました。
患者さんの安心につなぐためにも、業務の自動化によってデータ入力や管理作業を効率よく正確に進める、一刻も早いRPAの構築・導入が課題となっていました。

ワンチームになることで構築を実現
「固形がん遺伝子パネル検査 」という、患者さんの安心や命に関わる情報を取り扱うため、エラーの回避や時間短縮、繁雑な作業の改善は不可欠だったという大阪国際がんセンター様。作業の精度・効率の向上を目指し、RPAをゼロベースから構築するプロジェクトをSI&Cとともにスタートした。
―SI&Cを選んだ理由を教えてください
■山口さん
大手ヘルスケアカンパニー「ロシュ」様が販売するエキスパートパネル(*2)運用支援ソフトウエア『ナビファイ』のRPAを通じて、SI&Cとご一緒する機会があり、その際の真摯な仕事ぶりに、信頼感を抱いていました。また「がん遺伝子パネル検査」は始まったばかりの検査で、医療関係者にとってもまだ馴染みが薄く、使われる用語なども特殊です。そのような状況の中でSI&Cの柔軟な対応力に期待しました。
*2 エキスパートパネルとは
がん遺伝子パネル検査の結果について多方面の専門家が議論し、検出された遺伝子異常に合致した治療方針を検討する会議で、そこでの検討結果が治療に直接反映される重要な部分
―プロジェクトが始まってからのSI&Cの印象をお聞かせください
■饗庭さん
ヒアリングを何度も重ねて綿密な仕様を組み立て、テスト項目の洗い出しから、テスト実行、そして調整とトライアンドエラーを繰り返してより理想へと仕上げていく。驚くほどに丁寧で細やかな対応が印象的でした。
定型作業や繁雑な処理を自動化する「VBA(Visual Basic for Application)」をはじめ、必要な機能を臨機応変にスピード感を持って取り入れ、最適なRPAを構築してくださいました。
■山口さん
SI&Cチームの皆さんは、もはや大阪国際がんセンターの一人の職員のような存在でしたね(笑)。ゼロベースでの構築で紆余曲折して出口が見えないこともありましたが、ワンチームになって乗り越えられたことをとても嬉しく感じています。
トライアンドエラーへの取り組みも期待値を超えるもので、一つの項目を入力するのに数十パターンの条件設定を考慮し、複雑で細かい、大量なデータ処理が正しく動作するかを何度も試行錯誤していただきました。
ワンチームで何度もトライアンドエラーを重ねたことで、日常の診療に活用し得るRPAを実現することができました。ご負担は大きかったと思いますが、コミュニケーションもしやすく課題解決も早くて、とても頼りになる安心できる存在でした。
作業効率の向上だけでなく、患者さんの安心にも貢献するRPA
2024年秋頃から2025年春まで、約半年にわたってプロジェクトが進行。試行錯誤を重ねたワンチームになっての取り組みで、独自のRPAを構築することに成功。実際にRPAを導入してからの効果やメリットなどについて語っていただいた。
―RPA導入後の変化や効果について教えてください
■饗庭さん
従来は電子カルテの情報を見ながら一つひとつ手入力をして、その後にデータを複数名でチェックをするという流れでした。現在はRPAがそのあたりの作業を自動で実行してくれるので、繁雑で人為的な作業から解放され、何より正確性もスピードも確実に向上しました。RPAは私たちのまさに“相棒”といった存在になっています。
■山口さん
RPAはスタッフ一人、もしくはそれ以上の存在になっています。饗庭が話します通り、信頼のおける“相棒”になっています。
特に「固形がん遺伝子パネル検査 」においては専門用語や略語が多く、知識がないと誤解や誤認識が起こりやすくなっています。その部分をRPAが処理してくれるので、データを扱う人のハードルが下がったという点も非常に大きな利点ですね。
―RPAによって患者さんにもメリットはもたらされていますか?
■饗庭さん
病院側の仕事がより早く正確になることは、患者さんにも確実にメリットとなって還元されます。たとえば「がん遺伝子パネル検査」でいいますと、作業が短縮できると、それだけエキスパートパネルの開催タイミングが早まりますし、診断・対応も素早くできることになります。私たちの仕事の効率化・正確性の向上がそのまま、患者様のメリットにも直結するのです。その点からも今回のRPAは、患者さんの安心や命をも守ることにも、大きく貢献できるものになっていると実感しています。
日々の業務改善や患者さんへのさらなる貢献を目指していく
最後に、SI&Cとの未来について、お二方にメッセージをいただいた。
―これからのSI&Cとのパートナーシップや期待することを教えてください
■山口さま
SI&Cは一緒にいろいろな課題を乗り越えてきた、ワンチームの存在です。病院にはまだまだ改善を要する点が多くあると思いますので、システム面でのサポート、業務の改善、さらにはさまざまな業務を俯瞰的に見た際のアドバイスなど、豊富な経験や知見をもとに新たな視点でこれからも助言していただきたいと思っています。
また先日とある学会で、今回のRPAでの自動化について発表したところ、たくさんの反響がありました。やむを得ずドクターがデータを入力していたり、手作業で時間のロスやミスの発生を課題にしている病院は多いので、アイデア的にも実務的にも非常に魅力的に受け入れられています。本件を一つのモデルケースとして、横展開につながったらいいなと思っていますので、そのあたりもSI&Cに力を発揮いただけたらいいですね。
■饗庭さま
今回構築したRPAを運用していくなかで、完成というものはなく常に調整が必要になります。医療業界では診療報酬改定など制度が変わり、社会的な変化にも随時対応していかなくてはなりません。その意味でも、日々のアップデートはもちろんのこと、システム・ベンダー視点での気づきや提案もいただけたら有難いですね。
SI&Cは技術や提案、そして人の魅力にもあふれていますので、これからもコミュニケーションを密にしながら、共に業務改善や患者さんへの貢献を目指していけたらと思います。
「固形がん遺伝子パネル検査 」の事務処理の自動化実現により、病院側の業務改善はもちろん、患者さんの治療選択の一助にもつながっている。これからもSI&Cとのパートナーシップはつづいていく。






