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Case Studies 01導入事例

■共同印刷株式会社 様

機密を含む過去の情報資産を守りながら未来に生かす環境を構築

ナレッジデータベース、ローカルLLMの基盤づくりを実現〜 

1897年に創業し、生活・文化・情報産業として社会と文化の発展に貢献するべく国内外で幅広い事業を展開する共同印刷株式会社様。早くからIT関連の事業も手がけ、2025年春にはIT関連及びデータ活用関連の機能を集約させたデジタル戦略開発部を発足。さまざまなテクノロジーやデータ活用に関わる製品及びサービスの研究開発、新技術の調査分析や導入を担当している。
これまでに蓄積してきた貴重なデータを、これからさまざまな業務や現場で活用していくことを考慮していたという共同印刷様。「ローカルLLM(ローカルLarge Language Model:PCやサーバーなどローカル環境で動作する大規模言語モデル)」の可能性を模索するなかで、2024年秋にSI&Cとのプロジェクトをスタート。半年ほどで、ナレッジデータベースとローカルLLMの基盤構築に成功した。
「新しい一歩を踏み出すことができた」と評価する共同印刷様の伊藤さん、石川さん、竹内さんに、プロジェクトやSI&Cとの取り組みなどについて語っていただいた。

情報資産の有効な利活用を考慮してローカルLLMの導入を検討

共同印刷様が抱えていた課題や「ナレッジデータベース構築およびローカルLLM導入」の背景などについて、IT統括本部デジタル戦略開発部長の伊藤貴彦さんに話を訊いた。

―当社はもうすぐ130周年を迎える企業です。情報系事業では、事業の重心を印刷から情報サービスへ移し、従来の出版・印刷のほか、IP(知的財産)を活用したオリジナルコンテンツや各種BPOサービスなどを展開しています。生活・産業資材系事業では、食品・日用品の包材製造を中心としつつ、培ってきた材料加工技術を生かした独自製品の開発にも注力しています。

多様な事業を推進する共同印刷様のなかでも、IT・情報部門は重要な存在となっている。

―元々はIT統括本部内にデータソリューション部、IT開発部がありましたが、2025年4月より両部門が統合され、データ分析・活用、研究開発、新たなサービス・技術の導入などを社内外のパートナーと連携しながら推進しています。

共同印刷株式会社 IT統括本部 デジタル戦略開発部長の伊藤貴彦さん

日々さまざまな課題に向き合い業務を推進しているが、そのなかで課題の一つとなっていたのが「LLM」の導入だったそう。

―当社ではこれまで、多様な領域において実績を積み重ねてきました。しかし一つひとつのナレッジが簡単に再利用できる状態になっておらず、新しい提案などに充分に活かすことができていませんでした。そのため先人達が築き上げてきた過去の資産を、もっと上手く活用するためにLLM導入の検討をしていました。

しかし、LLM導入には数々の壁が存在した。

―ネットワーク環境でのAI活用のニーズは、常に多く存在します。しかしながら当社では未公開の新商品パッケージや広告などお客様の重要な機密情報や、お預かりした個人情報などを扱うことが多く、情報漏洩のリスクなどを鑑みクラウドLLMを活用できない状況だったんです。

情報管理の見地から、クラウドサービスを活用することは不可能だった。そのため、ローカルLLMを部内で実際に試したというが、残念ながら求める結果とはほど遠かったという。
そういった取り組みに関するお話を、IT統括本部 デジタル戦略開発部 担当課長の竹内寛明さんに訊いた。

不安半分、期待半分だったスタートから徐々に“解”に出会えたと実感

共同印刷株式会社 IT統括本部 デジタル戦略開発部 担当課長の竹内寛明さん

―自分たちのPCにローカルLLMを入れて、テストをしたことがありました。しかし実際の仕事の現場で使える精度とはほど遠いもので、大きな課題として残っていました。

過去の試行錯誤をこのように話す竹内さん。そういった状況下において2024年秋、とある展示会でSI&Cと出会うことになる。

―SI&CのローカルLLMのデモを拝見しました。生成AIがプライベートな環境で、どれだけ活用できるのかに興味を抱きました。その際のご縁でローカルLLMについての話が進み、実際に当社のデータを基にローカルLLMを活用したPoC(Proof of Concept:概念実証)をスタートさせました。
不安要素も多い中で始まりましたが、AIで使えるデータをどう構築していくか期待も抱いていました。また、それまでも部署内で『将来的には個々人の端末の中にコンシェルジュが居るような環境を構築しよう』と話していたのですが、このプロジェクトがそれを実現する一歩になるのではないかという、可能性のようなものも感じました。

PoCでは、実際に機密情報を含むドキュメントを対象に、AI PC上でLLMを稼働させ、一つひとつの手触り感を確認しながらドキュメントの数や種類を増やしたりSalesforceなどの情報も追加し、AIで使えるデータの品質を向上させていった。そのプロセスを竹内さんはこう振り返る。

―期待半分、不安半分でしたが、データの安全性やセキュリティ面など、生成AI活用における当社が抱えていた課題を解決し、しっかりと守れることが徐々に明確になりました。一つの“解”に出会えたとチームで実感しました。

その一方で新たな課題も次々に表出し、そのなかで新たなる焦点を定めた。本プロジェクトを牽引したSI&Cの蝦名拓也はこう話す。

―定例会議のほかコミュニケーションを密にさせていただくなかで、課題の本質が見えてきました。精度高く手元で生成AIが動くというだけでなく、共同印刷様のなかで蓄積されてきた貴重な大量のデータをどう上手くナレッジ化し、いかに再利用しやすくするかが重要だと実感しました。まずは“ナレッジデータベース”の構築が重要で、そのためにローカルLLMを活用することにフォーカスしました。(SI&C蝦名)

そこからプロジェクトは、さらに加速していった。

今回のローカルLLM活用PoCでは「①完全オフライン環境での稼働」
「②高度なセキュリティ対策」「③カスタマイズ性の高いAIモデル」「④スケーラビリティと拡張性」を重視した

高い専門性と技術力、そしてマンパワーで新たな試みをカタチに

―ナレッジデータベースやエージェントプラットフォームといったものは、これまでもビジョンとして持ってはいました。しかし具体的なアクションにはならず、今回のプロジェクトで目前の課題として取り組み実現につなげられたことは本当に大きな収穫となりました。

そう語るのは、IT統括本部 デジタル戦略開発部の石川幸奈さん。石川さんは、SI&Cの印象についてこのように話す。

―SI&Cの、トライ&エラーの数の多さにはとても驚きました。結局PoCではトライ&エラーが必須で、その意味でもマンパワーがとても重要になります。またプロジェクトが進むほどに新たな課題も表面化しますが、それは見えなかった課題が見えるようになった証でもあって非常に価値のあることです。そういった一つひとつ現れる課題に真摯に向き合い、やりきる姿勢に、感銘を受けましたね。

共同印刷株式会社 IT統括本部 デジタル戦略開発部石川幸奈さん

ナレッジデータベースの構築やローカルLLMの実装の進行と同時に、SI&Cから新しい取り組みの提案を受けたことが石川さんにとって印象的だったという。

―システムや技術を構築するだけでなく、実際に『現場でどう役立てられるのかが重要でそこが知りたい』とSI&Cに指摘を受けました。そこで早い段階で営業担当など社内のさまざまなメンバーに協力を依頼し、どのような使い方、何が必要かといったことをヒアリングして、具体的に言語化しました。その取り組みも、“解”につながる大きなアクションだったと思います。

そうした取り組みや試行錯誤を繰り返し、半年ほどが経過し一つの到達点へ。石川さんにその所感を語っていただいた。

―我々にとってこのプロジェクトは、新たな技術領域への挑戦でした。ハードウエアの選定、プロトタイプアプリの構築など専門的で高度な知識と技術、さらには多大なトライ&エラーが必要な状況でした。SI&Cの存在は心強く頼りがいもあり、一丸となってローカルLLM環境を構築することができました。ローカルLLMを活用したサービス開発に向けて、とても重要な第一歩になりました。

ローカルLLMの基礎の構築は一つのゴールを迎えたが、本格的な運用はこれからとなる。現在社内でもトライ&エラーを繰り返し、反響も増えて来ていると竹内さんはいう。

―営業担当者は、これまでできなかった自然言語を使用した検索も、1回で精緻化した回答が得られそうと期待感を持っており、これまで蓄積してきたデータ資産を活用していきたいという声が届き始めています。今後そういった声を拾いながら、より進化させていきます。

お互いの成長を目指して

ナレッジデータベースとローカルLLMの環境をベースに、これからさらなる進化を重ねていく共同印刷様。2018年より『共にある、未来へ』というメッセージを掲げ「TOMOWEL(トモウェル)」をコーポレートブランドとしている。
最後にお一人ずつに、SI&Cとのこれからの未来について語っていただいた。

“共に成長しビジネスを拡大させるパートナー” 伊藤貴彦さん

SI&Cは知見や技術力の凄さもありますが、皆さんが有している情報量がとにかく多く、そこにも他にはない価値を実感しています。また『できない』というのではなく、常に前向きに明るく未来を語りながら実際に行動していくところも魅力に感じました。今後もパートナーとして、共に成長しビジネスを拡大して行けたらと思います。

“一緒に多様な可能性を追求し実現していきたい” 竹内寛明さん

柔軟さ、積極性、そしてトライ&エラーの数の多さなど我々の目には見えないところの頑張りといった、SI&Cメンバー一人ひとりが持つそれぞれの強みや魅力を感じています。個々の技術領域も広いので、これからもいろいろ可能性を一緒に探り追求しながら、理想を実現していけたらいいですね。

“重要なパートナーとして今後もサポートを” 石川幸奈さん

今回ナレッジデータベースとローカルLLMの基礎が完成し、いよいよこれから具体的なサービスを実現していくフェーズになります。その際にも、課題を共有し最新動向をくみ取りながら、SI&Cにはサポートいただきたいと思っています。現場レベルで新たな課題は常に出ていますので、引き続き技術や知見、そしてマンパワーを駆使しながら、重要なパートナーとして隣にいていただけたら幸いです。

ナレッジデータベースとローカルLLMの構築という一つのゴールを経て、共同印刷様とSI&Cの協働はこれからさらに拡大していくのだろう。